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普遍的な悲しみを描く 〜矢部雅之『Another Good Day!』

2025.2.20の「神奈川新聞」の「かながわの歌壇時評」に寄稿した文章です。


矢部雅之の第二歌集『Another Good Day!』が出た。二〇〇三年の著者の第一歌集『友達ニ出会フノハ良イ事』は、現代歌人協会賞と日本歌人クラブ新人賞を受賞し大きな話題になったが、実に二十一年ぶりの歌集刊行となる。

今回の歌集には、著者がアメリカのニューヨークを拠点に、ビデオカメラマンの仕事をしていた二〇〇八年から二〇一四年までの作品が収められている。

警官隊側ではよい画は撮れざればデモ隊の中で催涙ガス浴む

この歌はミネソタ州セントポールでの共和党大会を取材した際のものだ。カメラマンならではの視点の歌で、いい映像を撮るためには、時には危険な側に立たざるをえないのだろう。

ずんずんとオーク団栗降りきたりずんずんずんと夕冷えきざす

アメリカの花火は陰翳が無いと思ふ空襲のごとバカバカ爆ぜて

にほんごを誰ともはなさず終りゆく一日が西の空にあからむ

アメリカでの歌をもう少し読んでみたい。一首目の「ずんずん」「ずんずんずん」というオノマトペ(擬態語)から感じられるのは、大陸の自然のスケールの大きさである。二首目は、日米の花火の印象の違いを述べることで、アメリカの軍事大国としての側面を描き出している。三首目のように、歌人でありながら日本語から遠ざかる時間も長かったのだろう。著者は滞在中にハリケーンの被害で現代短歌関連の蔵書の大半を失い、中世・近世和歌、近代写生詠などにより親しむようになったという。

ほしのまにまたさき星うかびきぬ風ふけばその影かぜにゆれ

和歌のような調べで詠まれたこの歌は、二〇一〇年のハイチでの地震の取材のときのものだ。「影」は「光」の意味で用いられている。停電で灯りが消えた街では、いつもは見えない小さな星の光も見える。その揺れるような光に、被災者たちの悲しみが滲んでいる。海外の災害を詠むに当たり、あえて和歌風の表現を採用したことで、被災者たちの悲しみを、より普遍的な形で描き出すことに成功した一首である。

(初出:2025.2.20「神奈川新聞」「かながわの歌壇時評」)

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